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レノン・コンサルティングは謎のコンサルティング会社である。
五年前に他界した経営学の神様、ウィリアム・レノン教授が興した米国のコンサルティング会社であること以外、その実態を知るものはいない。
ウィリアム・レノン教授が亡くなった後、ほどなくしてレノン・コンサルティングは活動を休止したが、二年前に新生レノン・コンサルティングとして活動を再開している。新生レノン・コンサルティングのコンサルティング・スタイルはきわめて特殊だった。
コンサルティング契約を締結すると、カンパニー・ビュワーと呼ばれるアプリケーションを、すべてのパソコンとモバイルフォンにインストールさせる。カンパニー・ビュワーを導入すると、売上日報や経理日報などの数値データはもちろん、全社員の日報やチャット、メモパッド、通話記録にいたるまで、すべての情報が高度に暗号化され、インターネットを通じてレノン・コンサルティング側で閲覧できるようになる。
レノン・コンサルティングからの助言は、社長に対してのみ、専用のメールシステムを用いて行われる。レノン・コンサルティングのコンサルタントが、クライアントと顔を合わせることは一切ない。コンサルティングを受けていることは、社外はもちろん社内に対しても公表してはならないと契約書に明記されている。契約期間はいかなる場合でも一年。レノン・コンサルティングは、契約終了と同時に、コンサルティングのために収集したすべての情報を完全に消去し、その後はクライアントにコンタクトを取ることはない。
レノン・コンサルティングとの契約は、ボストンを本部とし、ニューヨーク、ワシントンD.C.、ロンドン、パリ、マドリード、ブラジリア、東京など世界二十四都市に拠点を持つ、スタンスフィールド国際法律事務所を通して行われる。
ウィリアム・レノン教授の死後、誰がその後継者となったのか、現在は何人のコンサルタントやアナリストが在籍しているのかも、一切公表されていない。
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『マーケティング・セクションを創設してください。マーケティング・セクションのトップは、いかなる場合でも言い訳をしない人を選んでください。負けは負けと認めて、次に勝利をめざして前進できる人材を、社内から発掘してください』