遥の歓迎会は、源次郎の古くからの知り合いがオーナーシェフを務める、イタリアンレストラン、オステリア・ダ・カミキで行われた。
奥山は質問バトルの時の、自分の狼狽ようを、面白おかしく再演した。
遥は頬を赤らめ「本当に申し訳ありませんでした。でもすごく楽しかったです」と言って笑った。奥山がファイティングポーズを取ると、遥も照れながら小さくファイティングポーズを取った。それを見てみんなが笑った。
次々に運ばれてくるイタリアンはどれも絶品だった。
食事中もメンバーは遥にマーケティングに関する、さまざまな質問をした。遥はすべての質問に、平易な言葉で、しかも的確に答えた。
メンバーのテーブルには「めちゃくちゃ美味しい!」の声と、「めちゃくちゃ面白い!」の声が交互に飛び交った。結局、その日、オステリア・ダ・カミキには他の来店客はなく、マーケティング室のメンバーの貸切状態となった。
最後のドルチェとコーヒーが運ばれてからしばらくすると、オステリア・ダ・カミキのオーナーシェフ、神木建造がテーブルに挨拶にきた。
「本日はお越しいただき、ありがとうございました。お楽しみいただけましたか?」
「全部、すごく美味しかったです!」鮎川が言う。
「シェフと源さんはお知り合いなんですよね」奥山が聞く。
「源さんとはかれこれ四十年来のお付き合いです。実はみなさんに召し上がっていただいた料理は、すべて源さんが鋳造してくれたこの特製のフライパンで作ったんですよ」神木は少し特殊な形状をしたフライパンを手にしていた。
「え、片山鋳造ってフライパンも売っているんですか?」奥山が驚く。
「いや、いや。オステリア・ダ・カミキにだけな」源次郎は笑いながらこたえる。
「もうこのフライパンがなくては、うちの店の味は出せません」
神木は厨房に向かって声をかける。コック服を着た若い男性がやってくる。
「源さん、息子の浩史です。今まで外で修業していたんですが、先月からこの店を手伝ってくれています」
「父がいつもお世話になっています」浩史が笑顔で頭を下げる。
「それはなによりだ」源次郎が言うと、神木はうれしそうに頷く。